初めて雇用のリアルな難しさ

”はじめて雇用”とは”初めて障がい者を雇用する”ことを指します。
企業として初挑戦…だけでなく、人事担当者が、現場として…など様々な”初めて”があります。
今日、ご紹介するのは、企業として”はじめて”の事例です。
”初めて雇用”でぶつかった、困った、悩んだ…を話してくださいました。
許可を得て掲載させて頂きます。

採用時の様子 

採用時 採用担当のヒアリングより

◎本当は一般での募集
短時間でいいので、手際よく仕込みをしてくれる主婦をイメージして募集

◎”内部障害”「重いものは運べないが、他は問題ない」という本人談。
障がい者雇用には取り組んでいきたいという想いもあった為、前向きに検討

◎ライトな応募書類「短時間のパートさんならこんなものかもな…」

◎想定は仕込みの裏方仕事だったが…接客経験があり、得意という本人談。「やる気」「積極性」とポジティブジャッジ。

◎体力に自信がない+ご家庭の事情という理由で…まずは週20時間に全く届かない契約時間を希望

★働きたいという想いに「期待」も込めて採用を決定

現場からのヒアリング 初日~出勤2回目時点

現場担当者(以下:現担)
「緊張した様子もありましたが、雑談にもこたえてくれて、心配し過ぎたかなぁ~と最初は安心した気がします‥‥」

廣田(以下:廣)「最初は??気がします???」

現担:
業務面では、作業は1つずつ伝えて、出来栄えを確認しましたが、どれも仕上がりがイマイチで…「雑」なんです。その都度伝えて、出来上がりのクオリティーを示しても、また次には雑…。

眼鏡をかけていたこともあるので、視力も悪いのかな?と思い、本人が得意だと言っていた接客に挑戦してもらいました。

接客と言っても簡単なもので…
昼食のテイクアウト品をお渡しするだけなんですが…

急いでるお客様に、長々と商品説明や確認をしたりと、その場の流れに合わない行動が続き、お客様を不機嫌にさせることもあり、仕込み業務に戻ってもらいました。

でも、まだ、日が浅いので、慣れれば改善されるかもと思い、次回に期待していました。

1週間後 現場ご担当者さま…「自分が嫌になる…」発言

何度教えても”雑”な仕上がり、
業務指示や手順をすぐに忘れる
メモをしない
ミスを自己流で修復しようとして悪化させる
指摘するが、同じことを繰り返す

何をやっても、どの仕事をしても、仕上がりが雑で何かミスをする。
それを同僚がやり直すので、みんなが疲れてく…
仕事が増えるんです…。
メモを取らないので、「ホントにわかってるの?!」と聞くと
「はい」と答えてまたミスするので、イラっとしてしまい…。

だんだん自分が嫌になってくるんです…と切々と話してくださいました。

障がい者雇用サポートサービスの介入 

弊社が関わったのは、採用から1ヶ月が過ぎる頃でした。
前段のヒアリングは、この介入時に関係者と話したものです。

廣田がやった事① とにかく一緒に働いてみる!

百聞は一見に如かず!ヒアリングで伺ったことも大切ですが、どこにどう問題があり、解決にむけてどんな道があるのか…
一緒に働いてみたいと申し出たところ、ご快諾頂き…いざ現場へ!
(本人にも、現場の方にも、弊社の目的はお話しして入ります)

同じ時を過ごすと、気づくことがたくさんあります。
話してみて、感じる事がたくさんあります。

廣田がやった事② 予測+仮説×検証…本人の話も聞いてみる!

業務の遂行能力などは、同僚の皆様からのヒアリングと現状の差はありませんでした。つまり、求められるQualityには実際達していない。
本人なりには工夫しているつもりだが、工夫しどころが違っているのです。

で、自分なりに工夫はしてるんです…と言ってしまうので、口答えととらえられて、周囲との関係が悪くなる…

それについて、気づいているのか、また、どう感じているのかを聞いてみたくて質問してみました。

Q:「1ヶ月過ぎて、お仕事はどうですか~」
A:「ちょうど、辞めたいと思っていたところでした」

活字にすると、質問に対して、合ってない答えのように見えますが、この会話から、ご本人は、これまでにも同様の経験をしてきたのだと推測しました。多分何度も…。

ご本人的にも、うまく行ってないことは薄っすらと感じていたようです。

また、あちこちにぶつかりやすかったり、自分の体が近くのタイマーに触っていることに気づけない…など、体の不安定さや体力だけではないのかも…と思える気になる点も、いくつかありました。

廣田がやった事③ 問題の絡まり具合を見極める

ご本人からのヒアリングでわかったこと
 1.迷惑をかけている気持ちがある
 2.業務が覚えられない
 3.メモをうまく取れない
 4.細かい作業ができない
 5・包丁がうまく使えない
 6.注意された内容が入ってこない
 7.接客の方が好き(向いてる)と思っている

今回の飲食店において、求めている人材は
”仕込みができる裏方さん”でした。

包丁や調理のスキルは必須条件だったのです。
得意ではないにもかかわらず…”できます”と言ってしまったのですね。

「スピードを求められなければできると思った」と本人は言いましたが、
飲食店の仕込みは、時間との戦いです。前提が違っていたようです。

障がい者雇用アドバイザーとしての助言

ご本人へのメッセージ

ご本人のヒアリングで、感じたことから、ご本人の辛さに寄り添いつつ、伝わる言葉を選びながら、下記についてアドバイスをさせて頂きました。

1.会社が”して欲しい仕事”とご本人の”できること”が大きくズレている
2.配慮を得るべき項目は”内部障害”だけではない可能性がある
 (例:視力、握力、空間認知力、判断力、スピード感など)

特に、2番目については、職業評価などでわかることもあると思うので、必要であれば、ハローワーク等へのご案内もできるむねお伝えしました。
本当に必要な配慮について、自分の言葉にできていると、その先の人生に役に立つ事もあるかもしれません。

企業側へのアドバイス

障がい者雇用に挑戦するハードルをひょいッと飛び越えたことは、本当に素晴らしい事だと思います。
そのチャレンジを今後に活かすため、採用する時の基準業務を説明する時に分かりやすい表現を考える事、実習なども視野に入れる事をご提案しました。

”自分が嫌になる”とネガティブな想いを隠さずに、お話しして頂けたことで、しっかり受け止めて対応することができました。
その風通しのよさが、障がい者雇用を勧めるのに必要な要素であることをお伝えしました。

結果は…
ご本人の希望で退職となりました。
退職にあたっては、ハローワーク等支援につなぐサポートまで丁寧にさせて頂き、双方にとって、不安を最小限にする手立てを取ります。そこまでが、「産業ソーシャルワークサービス」の大切な役割です。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
採用時にはここを見て!!の隠れポイントです。
ぜひ、採用の参考にご活用ください。

  1. ・支援者(助けてくれる人・福祉の人など)がいるかどうか
  2. ・どんな考え方か(人のせいにしがち…、自分を責めすぎる等どちらかに極端など)
  3. ・ご本人は、自分の困り事をどうとらえているのか、困り感をどう表現する人なのか
  4. ・困ってる事を適切に表現できそうか
  5. ・離転職のエピソード(成長タイプ?好奇心多めタイプ?何かワケがありそう?)
  6. ・応募書類の記載状況(文章力、表現力、美しすぎる、違和感があるなど)

例えば、離転職が多いからダメ…というわけではなく、そこにどんなエピソードがあるのか、その転職をどうとらえているのか?その思考は自社の社風と合いそうか…等、会話の中から選考ためのヒントを集めていきます。

特に、2,3…。ここをどうとらえているのか、どう表現するのか、困ったときに助けを求められるのか…ここはじっくり確認することをお勧めいたします。

「あんまり、聞くといけないかな…」という気持ちになりがちですが、企業としては「合理的配慮」を提供する義務があります。お互い気持ちよく仕事をするために、困りごとについては、詳しく聞きましょう!

”よその人”だから言える事

中立的第三者…なんていうと、すごく他人行儀な気がしています。
でも、たしかに内部の人ではありませんので”よそ者”なんです。
でも無責任というニュアンスを払しょくしたいので…
あえて言うなら”いい意味でよその人”だと思っています。
そんな”よその人”だから話せることがあり、お伝え出来る事があります。

人事のほけんしつ+社内ほけんしつ

シチロカソーシャルデザイン「ソーシャルワークの手法を活かして」は「人事」の悩みにも、当事者のココロにも寄り添います。
労使関係にあてはめると、聞くに聞けない…いうに言えない…そんなところが必ずあります。弁護士、社労士…等「士業」と言われる先生方と同じ「士」が付きますが、フレンドリーセクターにいる「社会福祉士」をぜひ、ご活用ください。